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将来予測の振り返り

今年話題を集めたChatGPTの登場によって、AIの存在がより身近になったように感じます。これまでAI技術は、車の自動運転や統計分析といった専門性の高い限定的な領域で用いられていましたが、ちょっとした文章や画像を自動で生成するなど、私たちが日常で気軽に扱えるほどに汎用化されつつあります。AI活用の場は今後ますます広がることが期待され、10年後の市場規模は現在の何倍にも拡大するとの予測も出ています。


AIに限った話ではありませんが、トレンドとなる技術やワードがひとたび注目を集めると、様々な将来予測が出されます。「5年後、10年後にはこんな未来になっている」といった社会像予測から、「市場規模〇倍」や「経済効果〇億円」といったような経済予測まで、様々な予測を目にします。


特にビジネスの世界においては、こうした予測をもとに企業の中長期的な戦略策定やマーケティングを行うことが多いのではないでしょうか。私たちはトレンドに対する関心が高いとともに、そのトレンドが今後どのような広がりを見せるのかといった将来予測についても関心が高いものです。


一方で、過去に出された予測を振り返ることはあるでしょうか? 実際に訪れた未来に対し、当時の予測が当たっていたか否かを確かめる「将来予測の振り返り」は、予測そのものと比べると目にする機会はずっと少ないように思います。振り返りをしないことには次の予測も正確には行えませんし、前述した企業の戦略策定やマーケティングにおいても根拠や信憑性が薄れてしまいます。また予実の正誤だけでなくその差分や要因について考察することも予測精度を向上させるうえで重要です。


では過去にどのような予測があったでしょうか?代表的な例のひとつはスマートフォンです。かつてガラケーが主流だった時代に、2007年AppleがiPhoneを発表し注目を集めると、当時も多くの専門家が「スマートフォンはガラケーに取って代わる」、「10年後の市場規模は何倍にも拡大する」といった予測を出しました。実際に10年後の2017年にはどうなったでしょうか?すでに皆さんの知るところではありますが、世界のスマートフォン普及は一気に加速すると、その出荷台数は10年で13倍の15億台以上となりました。もはやスマートフォンが私たちの生活に欠かせない必需品となっていることからも、当時の予測は想定通りかそれ以上になったと言えるでしょう。


さらに、こうしたスマートフォン普及の要因はどのようなものが考えられるでしょうか?要因の把握には、PEST分析(政治、経済、社会、技術の要因を分析する手法)などを用いることで、相互に影響し合う複数の要素を明確化できます。例えば、iPhoneという画期的なデバイスの登場は技術要因のひとつですが、大容量通信インフラの整備拡充(技術要因)や、それらを後押しする政策支援(政治要因)、人々の意識変容やSNSの普及(社会要因)も要因として考えられるのではないでしょうか。


こうした様々な観点での要因を理解することでより精度の高い予測を行うことができますし、要因ごとに複数の予測シナリオを用意しておけば、社会変化やリスクにも柔軟に対応することができます。将来予測とは、トレンドとなる技術やワードが注目されたときのみ関心を寄せるものではなく、継続的に動向を注視し、振り返りと併せて実施することが重要です。


さて、AI技術の発展と普及は今後どのように進むのか、もしくは進まないのか?未来は誰にもわかりませんが、今後の行く末に注目しつつ振り返りもしっかり行っていければと思います。もしやそんな振り返りをAI自身がしてくれる未来が訪れるのでは?なんて期待もしてしまいますが、私たち自身もAIに後れをとらず成長を続けていきたいものですね。

シニアコンサルタント 髙橋 季大

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