多事想論articles

君たちとどう生きるか

昨今世間を騒がせた映画といえば何を想像するだろうか

スポーツ漫画の金字塔に新たな視点を加え映画化した『THE FIRST SLAM DUNK
ディズニーが100周年に寄せ名作を実写化した『リトルマーメイド』
数年ぶりの続編で登場人物達も作品と共に年齢を重ねた名作『インディージョーンズ』

いずれもタイトルだけで多くの人が内容を想像できる大作なだけでなく、それぞれの作品内でメッセージ性や別の視点で物語を見るなどの工夫を込めた良作となっている

そんな2023年夏、彗星のごとく現れて話題を攫っていった作品がある、宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』だ。

 

宮崎監督にとっては10年ぶりとなる長編2D映画とのことで、筆者を含めた世間の関心はとても高いものとなっていた。
しかし、公開が宣言されたのは良いものの、その情報があまりにも少ない。
あらすじはおろか声優など出演者の情報も一切なく、わかっているのはポスター化されたサギのような鳥の一枚絵のみ。

先に挙げたスラムダンクでも使われたこの手法は、あえて前情報を少なくすることで消費者の関心を引き、口コミによる浸透で話題性を上げるというもの。
果たしてその目論見は成功し、公開されたその後もいかにネタバレせずにその感想を伝えるかというレビュー合戦に発展する形でより多くの話題を呼んだ。

我々はスマートフォンと呼ばれる小さな高性能端末を片手に毎日を過ごしている。
少しでも興味の湧く事柄があればGoogleで検索しAIに問いかけることで手軽に表層を攫うことができ、SNSを開けば望むと望まざるとにかかわらずネタバレや裏側まで知ってしまう。
そんな今だからこそ、あえて知らせないという手段が知りたいという"意思"を引き出し効果的な宣伝として成立するのだろう。

 

また、情報は知るだけでなく覚えて使えることで知識となり意義が生まれると思っている。

筆者が子供の頃は「汗をかいて辞書を引け」と教えられた。
わからないこと、知りたいことがあれば答えを聞くのではなく調べることから始めるようにとの意図である。

伝聞で得たものに比べて自身の"行動"を伴って得た情報はInputに対する刺激が多様になるため忘れづらく、また知りたいという欲求も簡単には満たせないため得られた時の達成感や喜びが"覚える"という状態をより強固にし、得た情報を"使える"ようにする。これには実感を以て賛同いただける方も多いだろう。

筆者の小学生になる娘を例に挙げると、知りたい盛りの彼女は日常の様々なことがらについて「なんで?」を投げかけてくるため、時間があれば答えを教える前に一緒に調べたりもしている。

ある日、本を読んでいた彼女から「アメンボはなんで水を泳げるの?」と問われた。
筆者が「アメンボの足には油がついていて、それが浮き輪の役割をしていて泳ぐというより滑っているんだよ」と口頭で教えると、「ふーん」という生返事とともにその会話が終わり情報の知識化に失敗してしまった。

しかし後日、近所の河原で本物のアメンボを見つけた彼女は、じっくり観察するという"行動"をとったうえで改めて興味を持つ。
「アメンボの足は先まで細いのに、水底に差した影が丸くなっているのはなぜだろう?」
「水辺にいるのに、窒息しないのはなぜだろう?」
それぞれ自分で調べてみると『足先の影が膨らんでいるのは毛と油が水を弾いているため』だとわかるし、『窒息しないのは足で水面に立ち、泳いでいるのではなく滑っているため』だとわかる。
結果彼女は、その後訪れた忍者村のアスレチックで水蜘蛛の術(水面に浮き台で浮く遊具)を使いながら「アメンボと一緒だね」と楽しんでいたのだ。

自身が"行動"し得た情報を覚えて別の場面で使ってみる、これが理想的な知識の身に着け方のひとつと言えるだろう。

 

情報の正確な取得と効果的な活かし方が更に求められる時代を生きていく子供たちが
知りたいという"意思"を上手く引き出せるように
知ることと"行動"を結びつける機会を得られるように
試行錯誤しながら子育てに奮闘する毎日である。

 

なお余談だが、筆者の名前をGoogleで検索すると同姓同名で読み方の異なる某キャラクターがTOPに出てくる。
この珍しい氏名の組み合わせで被るなんてなんという奇跡!というオドロキと共に、「いつか知名度で彼を超えられる(≒筆者を知りたいと検索してくれる人が増える)よう精進せねば...」と自分に発破をかけるなどしている。
(筆者とこのキャラクターには一切の関係性はない、念のため...)

シニアコンサルタント 榧野 尊

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